【役立つ!】調停調書の更正と裁判所の内情

以前、「【役立つ!】判決主文と登記手続のリンク」で少し書いたこと。


判決の場合、「計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤り」があるときは
裁判所が申立により、又は職権でいつでも更正決定することができる(民訴法257条1項)。

裁判官が寝ずに起案して書記官がチェックした判決書でも
たまーに損害費目が一個丸々落ちてたり、
単純な計算違いがあったりというミスがあったりします。

そういう場合、この判決の更正の申立を行うことで
訂正してもらったりすることもしばしば。

では、調停調書の場合はどうか。
この点、調停調書については、民事・家事問わず
上記のような更正の手続に関する規定も
民訴法の条文を準用する規定もない(民事調停法、家事審判法参照)。

ところが、調停条項の内容の不備のため執行ができないということも
場合によってはあるわけで、そんな場合に調停調書の更正ができないのか
ということが当然問題となる。

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結論をいうと、
規定がないものの、調停調書についても更正は可能であり、
法的根拠は「民訴法257条1項類推」

なお、「明白な誤り」は、調停調書の場合
「調停調書自体の記載内容や文言の前後から判断して、
あるいは調停事件記録を検討することによって、
調書の表現に誤りがあることが誰の目から見ても疑問の余地が
ないという程度に客観的に明白であること」
とされています。
(判例タイムズ1100号544頁・東京家庭裁判所判事石田敏明『調停調書の更正』)
つまり、「誤りが調停調書の記載のみから明らかであること」
までは要求されていない
(ここ重要!)。

あと、この「明白な誤り」は
「裁判所に顕著な場合」
「経験法則に照らして推認できる場合」
「当事者の過失により生じた過誤による場合」

のほか、
「合意した内容、真意を的確に反映していない場合」
も含むとされています(前掲判例タイムズの論文)。
この「内容、真意を的確に反映していない」って
いかにも法律家(特に弁護士)が好みそうな主観的な表現です。

なので、更正が認められる場合ってのは結構広い。
個人的な印象だけど、「主文、条項の記載の仕方がマズかったから登記できねえ」
という場合は結構イケそうな感じです。

ただ、実質的な権利変動の形が変わるような場合、
例えば、もとの調停条項が「順次移転を内容とする登記手続」だったのに、
これを「中間省略登記」とするような内容の更正はできない。

で、以前、債権者の立場で、担保競売申立のために
債務者(故人)の相続人らによる遺産分割調停調書に基づいて、
相続人らへの相続登記手続を代位申請しようとした事案がありました
(いわゆる「代位による相続登記手続申請」です。)。

その事案では、債務者の相続人らで
担保不動産を対象とする遺産分割調停が成立したのに
なぜか相続登記はせずそのままという事案でした。
(多分当初は任売するために調停したけど
任売が頓挫したためほったらかしたのだろうと思われる。)

ところが、実際に法務局に事前相談に行ったところ、
「この家事調停調書では登記できへんよ。条項おかしいし。」と指摘されてしまい、
やむを得ず、債権者の立場で調停調書の更正を図ることとなってしまいました。

まったく自分が関与していない遺産分割調停事件について
利害関係人として更正の手続をとるのは、
頼まれてもいないのに他人のふんどしを締め直す手伝いをしてるみたいで、
かなり釈然としない感じです。

で、こちらは調停の当事者でもなく、
単なる「利害関係人(調停当事者の債権者)」に過ぎないため、
更正の申立権がありません(民訴法257条1項参照)。
そのため、更正申立ではなく、
「更正についての裁判所の職権発動を促す上申」という形となりました。

その結果、時間はかかりましたが何とか相続登記手続の代位申請も受理されました。


あと、判決や調停調書更正の注意点をいくつか。

①必ず「どのように更正してもらいたいのか」
という点を明らかにすること


つまり、更正だけに「ここをこうせい」と示す必要があるわけですね。
これは、登記手続を定める主文や条項の場合は特に重要。
「更正した内容でも登記できなかったよ」というのは
自分の無能ぶりを遺憾なく見せつける結果にしかなりません。

必ず事前に法務局と協議し、必ず受理してもらえる内容で
主文や調停条項の案を固め、「改定案」を更正申立書(ないし上申書)に添付する。
(本来、これは結審前(調停条項作成前)、
もっと厳しくいえばそもそも訴訟提起(調停申立)の段階で
確認しておかなければいけない事項だということを肝に銘じるべきです。)

②申立はできるだけ早く行うこと

ある裁判所書記官の弁によると、
「更正が認められるか否かは、更正の時点で
『実際に事件にかかわった裁判官が残っているか否か』
大きく影響される」ということです。
これは、事件を担当した係が更正の可否を判断することを考えると
十分納得できる話です。
担当裁判官が異動した後だと、事件の実情を知らない別の裁判官が
記録のみを読んで判断しなければならなくなり、
更正に対する姿勢は慎重にならざるを得なくなるからです。

③裁判所に配慮した対応をすること

いざ更正が認められた場合、事件当事者に対して再度、
更正後の判決書なり調停調書なりを送達しなければなりません。
この場合、担当の書記官が若干申し訳なさそうに
「更正した判決書(調書)送達のための郵券を予納してもらえますか?」
申し出てくることに貴方は気付くでしょう。
ここでどう対応するかは結構重要です。

「いいよ、ここは僕が出しとくから(キリッ」というのが正解

一般に、更正が必要となる過誤というものは
裁判所(とりわけ担当書記官)としては
そのミスを見落としてしまったという「負い目」があるため、
送達のための郵券の予納を当事者に頼みにくいようです。
代理人が就いてる事件なんかはまだいい方で、
当事者本人が弁護士付けずにやってる事件だと、
「裁判所が間違ったのに、なんでそんなん余分に払わなあかんの!」
と言われてしまうことも少なくないんだとか。

もっとも、大抵の場合、
事件終了により残郵券は全て返還しているため手元にも余分はありません。
結果どうなるかというと、郵券予納がない場合、書記官が
自分の担当した事件の更正判決や更正後調書の送達費用(郵券)を
自腹で出さざるをえなくなります(そのための予算が裁判所にないから。)。
こういう話を私も実際に書記官の知り合いから聞いたこともあります。
で、「更正の際の郵券を出してくれる先生はほんとに助かる」とも。

「裁判所のミスのための郵券を
当事者に負担させるのはおかしい」という人もいるかも知れませんが、
せいぜい1000円かそこらの郵券を惜しんで、
わざわざ裁判所にケチな弁護士だという印象を
与える必要はないような気がします。どうせ経費になるし。

裁判所や書記官に対していい印象、「できる弁護士」という印象を
持ってもらうということは、何かにつけ便利なことが多いです。
知り合いの弁護士は、更正判決の送達費用の郵券を快く出したことが縁で
ものすごい美人書記官と結婚しました(もちろん嘘です)。

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神戸の弁護士・中村真(なかむら・まこと)のBLOGです。
かつては複雑な法律問題などをわかりやすい絵で親切に解説しているつもりでしたが、最近はそうでもないです。自宅マンションに鳩が来るのが悩みです。

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