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「被告人Aと同じです。」

ごくたまに、何かの拍子に
それまで完全に眠っていた修習時代の記憶
フラッシュバックしたりします。
このあいだ、大阪高裁の弁論期日でもそんなことがありました。

自分は被控訴人の代理人だったのですが、
主張の理解を巡り、控訴人代理人と相被控訴人の代理人、
そして裁判所が私をそっちのけで議論を始めてしまい、
その間、一人完全に取り残されているような感覚に陥りました。
基本的に何かにつけ構ってもらいたいタチなので
なかなかに辛いシチュエーションです。

このときにふと蘇ってきたのが9年前の修習中にあった模擬裁判のときのこと。

それは刑事模擬裁判実習というもので、
クラスごとに裁判官、検察官、弁護人、被告人、証人に別れ、
実際にあったと思われる事案を題材に
うそっこの裁判をするという、当時の前期修習中の最重要イベントでした。

事案は、罪名は忘れましたが
共犯事件で2名の被告人が起訴され、
目撃者等の証人尋問や被告人質問を行い、
客観的真実にたどり着くという設定。

そして私が割り当てられた役は「被告人B」というものでした。

どのような経緯で配役が決められたのか覚えておらず、
いまさら思い出したくもないのですが、
みんなで協議しているときに
「共犯者の『被告人B』の供述が『被告人A』の事実認定に
大きく影響するんだろう。ヒヒヒ」
と思ったのだけは覚えています。


しかし配役終了後に配られた台本を読むと「被告人B」には台詞が割り当てられていませんでした。


模擬裁判というものは主に尋問技術の向上のために行うので、
被告人や証人といった尋問対象者には
あらかじめ詳細な回答内容や裏設定が割り振られており、
それを尋問者が巧みな尋問技術で引き出すということが求められているのです。
そのため、これら尋問対象者役が
自分で好き勝手に答えるというわけにはいきません。

もちろん、事前には裁判官チーム、検察官チーム、弁護人チームには
「こう聞かれたらこう答える」的な設定は一切明かされません。

ところが、台本を見てみると「被告人B」には
裏設定はおろか、まともな台詞すらなかったのです。

なぜか?

模擬裁判の焦点は「主犯格」の「被告人A」の尋問に置かれており、
「被告人B」には、わずかに冒頭手続の罪状認否の台詞が与えられているだけで、
被告人質問の予定自体がなかったからです
(Bの手続保障は完全に無視)

で、模擬裁判の当日、
入廷から冒頭手続まではやりましたが、
自分の発言で記憶にあるのは
「被告人A」の認否の後に裁判長役からされた
「被告人Bはどうですか?」との問いかけに対してした
「被告人Aと同じです。」というものだけ。
しかし、この誰も気にも留めない台詞こそが「被告人B」にとってのクライマックスでした。

その後は10:10から模擬裁判が終わる16:30までずっとただ座ってるだけでした
誰も自分に注意を払わない。声も掛けない。

mogisai.jpg

一応、雰囲気を出すために
トレーナーとジャージ、サンダル履き姿で「出廷」はしたものの
それが活かされることはついにありませんでした。


題材になる事案が結構複雑なんで、
どのチームも自分の担当部分ばかりに注意が向き、
なかなか全体的な流れを把握しにくいのが模擬裁判の常なのですが、
昼を過ぎたくらいから
「え?『被告人B』って尋問無いの?座ってるだけ?」みたいな
変な空気が法廷教室全体に漂ってくるようになりました。

私はこのときほど強烈な寂寥感・孤独感を味わったことはありませんでした。

なお、被告人B以外にもいてもいなくてもいい配役が何人かいましたが(俺は知っている。)、
みんなが見守る法廷のど真ん中で
約4時間半ひたすら座り続けるという
責め苦を受けたのは自分一人でした。
明らかに「被告人B」は不要な役でした。

模擬裁判は、最後、裁判官役が尋問の結果をもとに
判決言い渡しをするのですが、
私にとってはもはやそんなことはどうでもよく、
その頃には、19時から設定されている模擬裁判の打ち上げを
どのように乗り切るかということばかり考え続けていました。
(判決自体は、被告人Aに対する事実認定に引っ張られて
被告人Bも実刑だったような気がします。
被告人質問もしてないのに。)

最後の講評の際に、教官から
余り出番は無かったですが、『被告人B』の中村さんはどうでしたか?」
と感想を求められ、
「いや、どうもこうも…、みなさん頑張ってました。
もう少し僕も出番が欲しかったです。」
と答えたような気がします。


大阪高裁での現実の事件は完全な勝ち筋の事件ではあったのですが、
修習時代の黒い記録が蘇ったため、
暗い気持ちで高裁を後にしました。

そういえば、そのときは気付かなかったのですが、
よく考えたら当時、司法研修所のクラスは14組まであり、
模擬裁判のシナリオ・実施要領は全クラス同じだったので、
俺と同じような悲哀を味わった人があと13人いたことになりますね。
もしここ見てたら連絡下さい。飲みましょう。


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No title

ブログ面白すぎます(*^_^*)
ただいま原告で訴訟中なのですが、辛い裁判がネタに思えてきた。
しかし、この状況で4時間半は長かったでしょうね・・お察し致します

Re: No title

> ブログ面白すぎます(*^_^*)
> ただいま原告で訴訟中なのですが、辛い裁判がネタに思えてきた。
> しかし、この状況で4時間半は長かったでしょうね・・お察し致します
私も経験ありますが、なかなか自分の訴訟だと冷静になれませんよね。
確かに模擬裁判の4.5時間は長かったデス…。
回りの「ちょっとかわいそう…」的視線が一番辛かったですかね。
プロフィール

弁護士中村真

Author:弁護士中村真
神戸の弁護士・中村真(なかむら・まこと)のBLOGです。
かつては複雑な法律問題などをわかりやすい絵で親切に解説しているつもりでしたが、最近はそうでもないです。当職が出資したクラウドファンディングはたいてい頓挫します。

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